6度目の挑戦で日本一に!「BAR GLORY長野」バーテンダー・岩瀬美加さんが『横浜インターナショナルカクテルコンペティション2025』でグランプリ受賞!@長野県長野市

村はずれの沼のほとりに、一匹のかえるが棲みついている。村人たちは彼を気味の悪いよそ者と呼び、遠ざけた。やがて大かんばつが村を襲うと知ったとき、かえるの胸をよぎったのは、ざまあみろ、という言葉だった。それでも、もうひとつの思いが消えない。──もし、おれの雨乞いの歌が、この村を救えるのだとしたら。
2013年に刊行された絵本「むらをすくったかえる」(作/サトシン)は、拒まれた者が、拒んだ者たちのために歌うという、静かで容赦のない一編だ。その物語が今回、まったく新しい絵をまとって帰ってきました。
画を託されたのは、現実とファンタジーが溶け合う画面をつくる作家、TOMOYAARTS氏。そして、氏が最初に取りかかったのは、絵を描くことではありませんでした。
沼のほとりに建つ、一軒の家。半分は地面に乗り、半分は水に浸かっている。玄関を出て、どちらへ何歩あるけば村に着くのか。太陽は、どの方角から差してくるのか。街の模型をつくること。この世界の東西南北を決めること。すべては、そこから始まります。
「前の絵に、寄せなくていい」

最初に絵本作家のサトシン氏から打診が届いたのは2025年11月。以前から別の企画でも相談を受けてはいましたが、正式なオファーとしては初めてだったといいます。
サトシン氏とTOMOYAARTS氏の出会いは遡ること2年前。サトシン氏が長野市私立保育協会主宰の講演で知り合った「ころぽっくるこども園」の久保園長の紹介で、TOMOYAARTS氏のアトリエへ赴いたことがきっかけでした。
そこで、絵本制作などについて談義し、交流を重ねていきます。
その後、TOMOYAARTS氏は同園の天井絵と壁画を制作。完成した壁画は、別の用事で園を訪れたサトシン氏も見ることとなり、本作を担当する編集者との話し合い、ほかの画家候補の可能性も踏まえて検討を重ねる中「あの壁画を描いたんだから、いけるのでは?」と、候補に入れることに。それが今回のオファーへ繋がったんだとか。
「ついに来た、という気持ちと同時に、期待に応えられるかな、という思いもありました」
すでに世に出た作品には、読者の中に固まったイメージがついています。それをどこまで崩していいのか。絵にどれだけの情報量を入れ、どこまで脚色が許されるのか。アウトラインが見えないまま、手だけが宙に浮いていたというTOMOYAARTS氏。
答えをくれたのはサトシン氏でした。「文章はそのまま使う。ただし、絵は前作を意識しなくていい」。
とはいえ、自由を渡されてしまったからこそ、自分の足場は自分でつくるしかないと考えました。
まず、街をつくった

沼と村と家、その距離感を確かめながら、ページごとに5枚ずつラフを描き、提出していきます。
「ファンタジーって、なんでもできちゃうからこそ、しっかり骨組みを作りたくて」
そうして生まれたのが、この模型。家から村までは何歩か。沼地のほとりはどこで終わり、どこからが村の領域なのか。カエルの家が半分地上に、半分沼地にかかっているという設定まで、図に起こして線を引きました。
ディテールを詰めなければ、整合性は生まれない。整合性がなければ、その世界に人は入っていけない。そう考え、カエルの目線に立って、歩いていく導線を引いていきます。物語の終盤、カエルが息を引き取るその時間に差すのは西日がいい。そこまで決めてから、ようやく筆をとります。
直立しないカエルに、年齢を与える

キャラクター設定も同じだけ緻密に組み上げたといいます。
「そもそもカエルって、直立しないじゃないですか(笑)」
生き物としてリアルに描き込みすぎると、途端に恐竜めいて、見ていて落ち着かない姿になる。服装も、当初の短パンでは子どもっぽさが勝ってしまう。行き着いた答えは、青年。旧版にはなかった明確な年齢設定を与えたのは、ページごとに印象がぶれないためでした。
このページでは幼く、次のページでは老成している。そんな揺らぎを許さないこと。それは、このカエルを一枚の絵の中の記号ではなく、物語の中で生きて動く一人の存在にするための線引きでした。
月の光輪と、渇いていく肌

自分らしさが最も出せた場面を尋ねると、返ってきたのは夜のシーンの話。
月夜、家に戻って暮らすカエル、手紙を読むその手元。
月の縁にまとわりつく光は、アトリエから帰る道すがら見上げた実際の光輪を思い出し、描き直したものだといいます。現実とファンタジーが交差する地点に、TOMOYAARTS氏の絵はいつも立っています。
もうひとつ、物語の進行とともに静かに進むのが、カエルが「渇いていく」プロセス。はじめは艶を帯びていた肌が、物語が進むとともに少しずつ乾き、最後にはカサカサになり、目も見えなくなっていきます。
この移ろいを描く時、アクリル絵の具は一切使わず、色鉛筆とパステルだけで、乾きを、そして体温を、紙の上に置いていったのだそう。
ひらいたままの、扉

最も大きく変えたのは、結び。
旧版の幕切れ、土砂降りが鳴き声をかき消していく場面は、強く印象に残る決定的なシーンでした。それでも、すべてを描き進めた末に、「自分なりの最後は、これじゃない。」そう思ってしまったTOMOYAARTS氏。
結果、たどり着いた結びには、開けっ放しの扉があり、読み手に「もう二度と、あのカエルは帰ってこない。」そう思わせる絵になっています。
「読者が絵本の中に入り込んで、カエルの脇でずっと見守っているような感覚にしたかったんです」
エンドロールにあたる最終ページも書き換えました。旧版では晴れ渡っていた空ですが、その代わりに描いたのは、その後の村。タンポポが咲き続け、カエルの家のそばを、村人が歩き、近づいた距離が、そのまま人々の心の変化を語っている、そんな印象を与えてくれます。
石を、もう少し尖らせて
ちなみに、ラフの段階からこれだけ手を入れながら、サトシン氏からの描き直しの指示は、ほとんどなかったといいます。唯一の修正は、投げつけられた石の形について。もう少し尖らせて、痛そうにしてほしい──それだけ。
「文章に合わせて描いたのではなく、こちらが解釈を深く考えて描いた絵だということを、すごく尊重して、理解してくださったのだと思います」。
半年をかけて組み上げられた、沼と村と、一匹のカエルの生涯。ぜひ一度手にとってみてください。
サトシン・作/TOMOYAARTS・絵
●出版社
㈱岩崎書店
●定価
本体1,500円
●判型
A4変形判 32ページ
●発売日
2026年9月14日
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