「雨音は⋯信州フレンチの調べ」（SUIU／長野市）塚田兼司の日日是口福

信州ラーメン界のカリスマであり美食家としても名を馳せる塚田兼司が愛して止まない料理を毎号紹介。
6月にオープンした32シーズン限定営業の五感で信州を楽しめるフレンチ店に注目！

「mimakiチーズ/ビーツ/シャインマスカット」
冬のシーズンコース（15,400円）の一品として提供。※メニューは季節により変動、ペアリングは＋6,600円

翠の葉からしたたる純粋で透明な翠雨（すいう）。憂鬱な梅雨の季節の中でもなぜか人はその水滴に不思議と魅せられ癒されてしまいます。長野市にオープンしたフレンチレストラン「SUIU」さんの料理は、まさに翠雨のように信州の素材を愛でるよう優しく純粋で透明感のある表情に魅了させる力があります。
この日いただいた一皿「mimakiチーズ/ビーツ/シャインマスカット」は、翠の水滴の波紋の上に艶やかな真紅のドレスを纏い、花飾りをした美女が佇んでいるかのような可憐で純粋な一皿。ボスケソチーズラボさんが造る黒澤酒造さんの蔵付き乳酸菌で発酵させたmimakiチーズを使用したムースは酵母のさわやかな香りと旨味と酸味を感じる仕上がりです。ビーツでコーティングされたムースと下に敷かれたシャインマスカットのやさしい甘さ、ほうれん草とハーブのオイルのさわやかな組み合わせに…。ひと口食べた瞬間に胸が高鳴り初恋のような甘酸っぱい気持ちにさせられてしまうのです。

そんな恋する味を手掛けるのが軽井沢にあるレストラントエダの戸枝シェフであります。世界的フレンチの大会であるボギューズ・ドールでも日本代表を務めた素晴らしいシェフです。その戸枝シェフがコース全体を監修し、その理念をもとに小林ご夫婦が調理を担う――。三人が繊細に協力しあうことで、料理、ペアリング、そして天然酵母パンの焼き上げに至るまで、ひとつの美しい物語が精緻に紡がれていくのです。監修と技が響き合うその調和は、コース全体に静かな深みと上質な余韻をもたらしています。

――そして…。
こちらのレストランは開店日に閉店日を決めてあるカウントダウン式の特殊なレストラン形態で、8年間を32シーズンに分けて3カ月ずつで料理を変えていくレストランです。
32シーズンでひとつとして同じ出合いのないコース料理。あなたの初恋はどのシーズンになるのでしょうか。SUIUさんで信州フレンチに恋してみませんか。

料理を手掛ける小林シェフ。一つひとつ丁寧に盛り付けられていく料理の数々は、何層にも色の層が重なる繊細な一皿に。

左）冬のシーズンに登場する「近江鴨/信州秋映林檎/小諸産胡桃」　
右）レンガタイルが壁一面に広がる、クラシカルな内装。6席限定のカウンター席なので落ち着いた雰囲気の中ゆっくりと食事を楽しめます

コース料理にはアルコール、ノンアルコールどちらも選べるペアリングが絶対オスス
メです。
料理と飲み物の融合が生み出す奥行きある味わいが、五感をそっと満たす特別な時間を演出します。恋心が膨らんじゃいますよ！

素材の声に耳を澄ます
軽井沢のガストロノーム

SUIU･シェフ/戸松忠孝

渡仏して三つ星店を巡り腕を磨いたのち、2011年に軽井沢で「RestaurantTOEDA」を開業。仕込みから仕上げまでシェフ一人で担う少席のレストランで、信州産食材を中心に“風土と季節”を一皿に昇華する料理を追求する。2021年にはボキューズ･ドール日本代表にも選出され、その誠実な姿勢と確かな技が
多くの食通を惹きつけている。

SUIU（スイウ）
32シーズンすべてで違ったコースメニューを提供。季節が育んだ食材と、ひと皿の出合い。限りある季節のなかでの一期一会の味わいを、心ゆくまで楽しんでみてはいかがでしょうか。

塚田兼司の日日是口福

長野Komachiにて連載中。
県内外に数多くの人気ラーメン店を展開する「ボンドオブハーツ」グループの代表。全国各地のおいしいものを食べ歩き、有名シェフや美食評論家との交流も深い。信州のおいしいを発掘・発見するべく、止まらない食欲をエネルギーに、食べ歩きの日々は続く…。

※この記事は「長野Komachi2025年冬号」に掲載されたものです