長野市には、「私らしさ」を叶えられる場所がある――。この連載では、都市部・山間部・郊外、それぞれのエリアに移住を決めた移住・定住者たちの暮らしを紹介します。
「また引っ越しになるかもしれない」「子どもの学校はどうしよう」「仕事はあるのかな」。移住を考えるとき、そんな不安はつきものです。第3回は、郊外エリアの高田に家族3人で暮らす鈴木加奈子さん。
東京、埼玉、大阪、茨城と引っ越しを重ねてきた夫婦が、「次は定住する」と決め、じっくり選んだ先で出合ったのが長野市でした。「ここに定住する」と決めた家族の暮らしは、想像以上に彩り豊かなものに。新しい土地で、移住者起業支援制度(※1)を活用した新たな挑戦も始めています。
※1 長野市移住者起業支援金:長野市への移住の促進及び地域の活力の創出を図るため、県外から市内に移住して起業する50歳未満の方に対して、起業に係る初期投資費用(上限100万円)を支援する制度
いつかこんな暮らしができたら。引っ越しを重ねる中で芽生えた長野への憧れ
長野市の市街地東部郊外に広がる住宅地である高田地区。駅前の賑わいから少し離れた閑静な住宅街で、スーパーや飲食店など暮らしに必要なお店も多く点在し、子育て世代を中心に長く暮らす人たちが多いエリアです。中でも鈴木さん一家の暮らす地区は、長野駅まで徒歩約20分。東京への新幹線通勤も可能な距離でありながら、落ち着いた暮らしができます。
移住前から大手コーヒーショップに勤務していた鈴木さんは、移住後もそのまま店舗異動の形で仕事を続けられています。並行して進めているのが、コーヒー豆の焙煎・通信販売事業。まずは自宅に焙煎所をオープンし、コーヒー豆の通信販売を開始しようとしています。ゆくゆくは地域のイベントにも出店していく予定です。

鈴木さんが長野市に移住したのは2023年の3月。家族で引っ越しを繰り返し、「次は定住しよう」と決意を固めた上でのことでした。
大阪府吹田市で生まれ育った鈴木さんは、大学卒業後に就職先で都内の部署に配属され上京。鈴木さんの夫は、結婚前に長野県内で働いていた時期があり、会いに通うたびに長野での暮らしに憧れを抱くようになりました。
「これまで想像していた暮らしと全然違ったんです。きれいに整備された街なのに、美しい山並みが見えて、おしゃれなカフェやお店がいくつもある。地元の道の駅の特産品も美味しくて新鮮。なんて豊かな暮らしなんだろう、いつかこんな場所でこういう生活ができたらいいなと思っていました」
結婚後は、自分たちらしい暮らしが実現できる土地を求め、東京や埼玉、大阪と引っ越しを重ねてきた鈴木さん一家。子どもが生まれ成長していくにつれて、夫婦の間で「子どもが小学生になるまでに、定住する土地を見つけよう」という思いが固まってきました。そこで、まずは「郊外暮らし」のお試しとして、首都圏からのアクセスが良く、自然も多い関東近郊の都市に引っ越し、数年間暮らしてみました。
「その街の自然の豊かさやのんびりした環境は気に入っていただけに、さらに長野へ移住するのかはとても悩みました。ですが、家の契約更新や子どもの小学校入学も控え、老後か今か、いつか長野県に住みたいと思っているのであれば、元気な今のうちに行動してみようかと」
ようやく見つけた「ここで暮らす」という答え
東京の職場に勤めている鈴木さんの夫は、日々のリモートワークに加えて月に数回出社日があります。まずは長野県内の北陸新幹線沿線の地域を検討する中で、長野市に辿り着きました。長野駅から東京駅までは新幹線で1時間半と好アクセスです。しかし、「定住する」という覚悟があったからこそ、すぐには移住を決めずに時間をかけて準備・検討を重ねました。

「長野県の中で様々なエリアを検討しましたが、まずは、夫が会社に通える事を第一に。また、雪国で暮らした経験がないことから、比較的雪は穏やかな地域。そして、週末に子どもと遊びに行く場合に、長野の中の色んなエリアとアクセスも良いことから、長野市に絞りました」
エリアが絞れてからは、四季ごとに「お試し移住」として数日から数週間かけて長野市に複数回滞在し、厳しい冬の生活も踏まえ実際の暮らしのシミュレーションを行いました。
「あえて夫の出社日を選んで平日に滞在し、私と子どもが長野市に残り、夫が長野市から東京まで通勤してルートを検証したり、子どもが通う予定の小学校の周りを散歩して雰囲気を見てみたり。また、私は特に寒がりな上に、雪国の経験もないので、実際の長野の冬はどうなのか。実際に自分たちの目や足で体験してみないとわからないことがたくさんありました。親にも友人にも『ほんとに寒がりなのに大丈夫なの?』と最後まで心配されてましたが、実際に検証をしてみたのが大きかったです」

そうして長野市に通う中で、鈴木さんの心を動かしたのは、長野市役所の移住・定住相談デスクの担当者の方々の温かさでした。
「何度も問い合わせしたり、移住・定住相談デスクに通っていたので、『よく来たね』と家族のように出迎えてくれた言葉がうれしくて。小学校のことや、住んでからの事も一緒になって細やかに真剣に考えて下さいました。親戚も友人もいない土地への移住だったので、何かあれば要となる市役所に頼れる人がいるというのは心強かったです」
移住を決めた後は、まずは移住者向けの市の住宅に一時的に引っ越し、暮らしに慣れつつ土地探しを継続。そうしてたどり着いたのが、暮らしやすく市街地へのアクセスも良く、かつ雪が降った場合でも徒歩で新幹線のある長野駅までたどり着ける場所、高田地区でした。
「長野に移住というと山や自然の中というイメージを持たれる方も多く、思ったより主要駅近くに住んでいることに驚かれますが、どこからでも山は見えるし、15~30分車を走らせればみんながイメージする長野の雄大な景色が広がるので、郊外での暮らしがとても気に入っています」
誰もが楽しめるコーヒーを。移住者起業支援金制度が新たな一歩の後押しに
移住後、加奈子さんが新たに始めたのがコーヒーの焙煎事業です。以前はお茶の専門店にも勤めており、紅茶の講師として活動していた鈴木さん。妊娠のつわりの影響でそのとき不思議とコーヒーの香りに惹かれたのです。
「当時、カフェインレスの紅茶は様々な種類があったものの、カフェインレスのコーヒーは今ほど様々な種類が普及していませんでした。自分自身が『もっとたくさん種類があればいいのに』と思いながら過ごす中で、『きっとほかにも飲みたいと思っている方もいるはず。ないなら自分で作る道はないかな』と考えるようになりました。引っ越しが多く、子どもが小さいうちはなかなか動けませんでしたが、茨城にお試し移住した頃は少し子どもも大きくなり、余裕が出てきたので、フライパンを使ってコーヒーの焙煎を始めました」
いつかこの想いを形にできたら。個人店や大手のコーヒーチェーンで働きながらコーヒーの勉強を続ける中で、夫が見つけてくれたのが長野市の「移住者起業支援金」でした。
「『長野市にこんな制度があるよ。挑戦してみたら?』と教えてくれて。本格的に焙煎を勉強したい気持ちはありましたが、焙煎機を自分で買うには金額的なハードルも高く、かといって夫に負担をお願いするのも違うなと。この制度を知り、いち主婦ですが、移住をきっかけに新しいことに挑戦できたら、そしてそれが誰かの力になればと思えました。移住前から、何度も長野市役所に通って制度の内容を確認し、申し込みの条件を教えてもらい、移住後も準備を整えるべく歩んできました」

第一歩としてまずは自宅の小さな一室を焙煎室として、「月ノ燈珈琲」という屋号で日々研究を重ねています。オンラインでの通信販売や、イベント出店、地域の子どもたちへのコーヒー教室など、これから先やってみたいことがたくさんあります。
「妊婦さん、夜遅くまで働く人や、カフェインが苦手な人にも、コーヒーの選択肢を増やしたいです。私の夫も、夕方からはカフェインレスじゃないと眠れなくなるんです。人それぞれの体質や体調、身体の変化に寄り添えるコーヒーを作りたい。お客様の選択肢を増やせるよう、カフェインが入った通常のコーヒーも焙煎していきます。コーヒーという飲み物が1杯あるだけで、会話が弾んだり団らんができますし、心にポッと燈火が灯ったようなあたたかい気持ちになることもあります。そんな豊かさを、長野市から発信していきたいです」
地域に広がる、温かな繋がり
移住当初、長野市に親戚も友人もいなかった鈴木さん一家。今では、地域での繋がりが少しずつ広がっています。世代を超えたコミュニティがあることは、家族での定住先を選ぶ上で夫婦ふたりが重視していたことでした。
「高田は本当に落ち着いた住宅街で、長く住んでいる方も多いんです。ご近所の方が『お引っ越しお疲れ様』と声をかけてくださったり、玄関先に野菜や果物をお裾分けに置いてくださっていたり。最初は驚きましたけど、今までにない経験ですごくうれしかったです」
お子さんが学校から帰ってくると、近所のおじいさんおばあさんが「おかえり」と声をかけてくれることもあるそうです。鈴木さん夫妻は、ここに定住する上で、いずれは自分たちが地域の子どもたちに声をかける未来を夢見ています。
さらにコミュニティを広げるきっかけになったのが、市内の芹田公民館で開催されている文化講座です。

「講座を通じて公民館の職員の方や講師の先生、地域の人生の先輩方との交流ができています。『鈴木さん、コーヒー頑張りなさいよ!教室開催したら行くわよ』って応援してもらっています。いずれ公民館でコーヒー教室の講座が持てたら…。コーヒーで地域のみなさんの団らんをサポートできたらうれしいなと思っています」
最後に、長野市への移住を考えている人へのメッセージをいただきました。
「長野市に来てから、毎日に彩りがあるなと思っています。毎朝、子どもを送り出すときの山の景色や空もすごくきれいで、それだけでハッとし、うれしい気持ちになります。学校のお迎えに行った帰りも、『今日はあそこのカフェ行ってみる?』『まっすぐ帰って、お庭に種を蒔いてみようか。それとも温泉行く?』って。休日は市内のイベント、温泉やレジャー、他市や他県にもアクセス良く出かけることもでき、毎日飽きることがないんです。日々、暮らしの中に小さな楽しみが生まれているような気がします」

何度も引っ越しを重ねてきた家族が、定住を決めた長野市。季節とともに移ろう山の景色。子どもとの日々の小さな冒険。ほっと落ち着ける我が家と、家族での団らんの時間。今日はどこに行こう、何をしようか。毎日、小さな彩りが生まれる暮らし。
「定住する」とは、ただひとつの場所に留まることではありません。根を下ろし、人と繋がり、未来を描ける場所を見つけることです。何十年先まで見据えた一家の長野市での暮らしは、まだ始まったばかり。これから先も、小さな彩りと新しい出会いに溢れた日々が、きっと鈴木さん一家を待っています。
●鈴木加奈子(すずき・かなこ)/ 大阪府吹田市出身。2023年3月、茨城県守谷市から長野市へ移住。都内の職場に勤める夫と小学生の子どもとの3人暮らし。現在は大手コーヒーチェーンで働きながら、移住者起業支援制度を活用して「月ノ燈珈琲」の屋号でコーヒー焙煎事業を開始。実店舗はなく、オンラインによる販売やイベント出店を行う。
■月ノ燈珈琲 長野焙煎所(ツキノヒコーヒー ナガノシバイセンジョ)
https://www.instagram.com/tsukinohi.coffee/#

長野市移住ガイドブック「スム!ナガノ!(仮)」発刊決定!
NAGANO ebooks(https://www.nagano-ebooks.jp/)にて、2026年3月末より、デジタルブック版を公開します。
表紙を飾る長野市の形のマップアートは、長野市在住、または長野市にゆかりのある9人のアーティストが、この冊子のために描き下ろした作品です。
これだけでも一見の価値ありですが、この作品に負けずとも劣らない長野市の魅力をたっぷり詰め込んだ一冊。
公開後、ぜひご覧になってみてください。
※表紙デザインは変更になる場合があります
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