長野市には、「私らしさ」を叶えられる場所がある――。この連載では、長野市の都市部・山間部・郊外、それぞれのエリアで暮らす移住定住者たちを紹介します。
第1回は、長野市街地の上松エリアで暮らす中山萌花さん。長野県ゆかりの日本画家である東山魁夷の風景画に導かれて長野市と出合い、新卒で長野市の老舗七味メーカー「八幡屋礒五郎」に就職しました。
自然の風景を楽しみながら通勤し、仕事終わりは映画館や陶芸教室へ。家の周りを散歩するだけで心が満たされる。日常の延長線上にある豊かな暮らし。そんな中山さんの移住ストーリーを伺います。
「風景は心の鏡」。東山魁夷の風景画に惹かれて長野市へ
長野駅から善光寺へと続く表参道から、少し東へ。権堂から上松にかけてのエリアは、歴史ある寺社と新しい店が混在する、長野市の魅力が凝縮された一角です。
なかでも上松は少し高台に位置するため、街中から数分の距離でありながら、市街地とそれを取り囲む山並みが一望できます。街の利便性と自然の景観が両立していることが魅力です。
2022年に愛知県名古屋市から長野市に移住し、八幡屋礒五郎で働きながら、上松エリアで暮らす中山さん。中山さんが初めて長野市を訪れたのは大学生の頃。友人達との旅行がきっかけでした。

「もともと、東山魁夷の描く風景画がすごく好きで。友人達との旅行で長野県立美術館を訪れた際に、お隣に東山魁夷館があることを知りました。その日は時間が足りず企画展を観ただけだったのですが、美術館の屋上から山を眺めたことを今も覚えています。いつか必ず東山魁夷館にも行こうと思い名古屋に帰りました」
その後、何度かひとりで長野市を訪れる機会があったという中山さん。山や自然が近くにある風景や、ゆったりとした環境にどんどん惹かれていきました。
「あるとき、初めてひとりで東山魁夷館を訪れて絵画を観ました。そこでぐっと心を掴まれた感覚があったんです。」
東山魁夷館は四季によって展示が入れ替わることを知った中山さん。「また来たい」という思いが膨らみ、自然と定期的に長野市を訪れるようになっていきました。
「東山魁夷の著作に出てくる、『風景は心の鏡である』という言葉が好きなんです。きれいな風景を見て、『きれいだ』と思えるのは自分の心が穏やかだから。日常の中で山が見えて、それを楽しむ余裕のある長野市の空気がいいな、いつかここで暮らしてみたいなと思っていました」
「ゆったりした暮らし」を求めて新卒で移住を決意
学生時代はグラフィックやデザインの勉強をしていた中山さん。「これまで学んだことを活かした仕事がしたい」という思いと同じくらい、「自分の暮らしも大事にしたい」という思いがありました。
「自分はすごくのんびりした性格で。長野市の気候や時間の流れ、食の豊かさや、人のあたたかさが自分に合っている気がしたんです。ここなら、ゆったりとした暮らしが送れそうだなと思い、自然と長野の会社の求人を調べていました」
ひとつのものにじっくりと向き合い、価値を高める仕事がしたい――その想いが、八幡屋礒五郎との出合いに繋がりました。

善光寺門前で七味唐辛子の販売をはじめた老舗の七味製造・販売メーカー八幡屋礒五郎。1924年に六代目栄助が考案した七味缶は、100年間多くの人たちに愛されています。伝統を守りながら、新しい価値を生み出していく姿勢に共感したと中山さんは言います。
面接のために長野を訪れる中で、ますます「ここで暮らしたい」という思いは高まっていきました。縁あって採用が決まった後は、長野市在住の先輩方があたたかく迎えてくれました。
「住む場所を決めるときも、『土地勘がないだろうから』と会社の先輩方が親切におすすめのエリアを教えてくれて。その中で選んだのが上松エリアでした。東山魁夷館や善光寺も近いですし、何度も訪れていた場所なので安心感がありました」

想像を超える豊かな暮らし
長野市では車がないと暮らせないと思われがちですが、市街地を選んだ中山さんは移住にあたって車を購入せず、自転車のみで身軽に長野市暮らしを始めました。
家から職場まで、自転車で10分の通勤。5時には仕事が終わり、退勤後は権堂商店街内の昔ながらの映画館でレイトショーを観たり、旬の食材を買って帰り自社の七味を使ったお料理を楽しんだり。時間と心の余裕ができたことから、新しい趣味も増えました。
「最近は、地域のおばあちゃんたちに混ざって仕事終わりに月2~3回ほど陶芸教室に通っています。かといって毎日何かをしているわけではなくて。『今日は何もしたくない、ひとりでゆっくりしたいな』という日は、近所をのんびりお散歩するんです。山を見ると、すーっと心が落ち着きます」

友人も知人もいない土地への移住に不安はなかったのでしょうか。「もともとひとりでも平気なタイプですし、友だちがいないなら作ればいいかなと思って。あんまり深くは考えていなかったです」と微笑む中山さん。
実際に、仕事や暮らしの延長線上で無理せず人との繋がりが増えています。新幹線で東京まで1時間半、地元の名古屋までは特急しなので約3時間。 「県外の友人にも、会おうと思えば会える」という安心感もあります。
冬の寒さや雪には不安がありましたが、市街地は雪は降るものの除雪や雪かきが必須なほどではありません。「最初の冬は寒さに慣れずに3回風邪をひきました」と笑う中山さんですが、暮らすうちに防寒対策ができるようになったそう。
「雪が積もると自転車に乗れないので徒歩やバスでの移動になりますが、不便さよりも一面の雪景色に心が動きます。もともと豊かな暮らしをイメージして長野市への移住を選びましたが、想像を超えてくる豊かさがありました」
そう語る中山さんに、最後に長野市への移住を考えている人へのメッセージをいただきました。

「移住したからと言って、一生そこにいなければいけないというわけではありません。少しでも気になる人は、まずは飛び込んでみるのがいいんじゃないかな。長野市は魅力的な場所やお店がたくさんあるので、まずは私のように旅行で何回か通って好きなお店を見つけたり、好きな景色を見つけたりすると、ハードルが低くなってくると思いますよ」
「好きなまちで暮らしてみたかった」と、長野移住を決めたきっかけを語ってくれた中山さん。好きな景色や好きなお店、オフ時間の過ごし方。自分の仕事のことから、おすすめの七味レシピまで。穏やかにたくさんの「好き」について教えてくれた中山さんの姿は、まさに等身大という言葉がぴったりでした。
新しい土地への不安を軽やかに受け止め、まずは一歩踏み出してみれば、想像を超える豊かさが待っているかもしれません。あなたも、自分の「好き」を長野市で見つけてみませんか?
●中山萌花(なかやま・ほのか)/愛知県名古屋市出身。株式会社八幡屋礒五郎コーポレート・コミュニケーション室勤務。2000年生まれ。大学時代はデザインについて学び、2023年に新卒で株式会社 八幡屋礒五郎に就職。長野市街地の上松エリアで暮らす。
掲載の情報は公開日現在のものです。最新の情報は施設・店舗・主催者にご確認ください。












